※ 本記事は2017年3月の記事をリライトしました。
「この楽譜、弾きにくいな」と思ったことはありませんか。同じ曲なのに、出版社によって音符のつなぎ方が違ったり、指使いの番号がなかったりする。私もずっと気になっていた疑問でした。
答えをくれたのは、ピアニストの大竹道哉先生でした。そして、その話の流れで教えてもらったのが、著作権の切れたクラシック楽譜を無料でダウンロードできるサービスの存在です。
大竹道哉先生のレッスンで知ったこと
大竹道哉先生は、ピアニストとして演奏活動を続けながら、音楽大学でも指導されている方です。
特筆すべきは、ヴェーベルン「ピアノ作品全集」の校訂・運指・解説を手がけているという実績です。「校訂」とは、複数の原典資料を照合しながら楽譜の正確な表記を確定する、専門性の高い作業のこと。演奏するだけでなく、楽譜の中身を精査して世に出す側にいる人です。その先生が「楽譜の版の違い」について語るとき、重みがまるで違います。
私は以前、飯盛野教会で月に2回ほどレッスンを受けていました。その先生が大竹道哉先生です。レッスンの中で楽譜の話になったとき、「著作権が切れたクラシック曲の楽譜は、インターネットで無料ダウンロードできますよ」と教えてもらいました。
楽譜を「作る側」にいる先生がそう言う。単なる「便利サイトの紹介」ではなく、楽譜の成り立ちや版の信頼性まで踏まえたうえでの言葉だと受け取りました。
大竹先生の演奏については、こちらの記事にも記録しています。


著作権が切れた楽譜とは?いつから使えるのか
日本では、著作権は作曲者の死後70年で消滅します。つまり、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェン、ショパン、シューベルト……これらの作曲家の作品は、とうに著作権が切れています。楽曲そのものは誰でも自由に使えるのです。
ただし、注意が必要な点があります。楽曲の著作権と、楽譜出版社の「編集著作権」は別物だということ。出版社が独自に指使いを付けたり、強弱記号を加えたり、校訂を施したりした楽譜は、その出版物自体に別の著作権が発生しています。
後で詳しく触れますが、楽譜の出版社ごとに表記が異なるのは、こうした「編集の手が入っているかどうか」とも深く関係しています。
IMSLP(国際楽譜ライブラリー)とは何か
大竹先生に教えてもらったのが、IMSLP(International Music Score Library Project)というサービスです。
著作権の切れたクラシック音楽の楽譜を、PDFで無料ダウンロードできる世界最大の楽譜ライブラリーです。登録楽曲数・楽譜ファイル数ともに膨大で、バッハのインヴェンションからラフマニノフのピアノ協奏曲まで、探せばたいていの曲が見つかります。
サイトはこちらです。
🔗 IMSLP – Petrucci Music Library

IMSLPの使い方(日本語で解説)
サイトは英語表記ですが、操作はシンプルです。検索窓に作曲者名か曲名を入力するだけ。
- 作曲者名は英語表記で入力する(例:Chopin、Bach、Beethoven)
- 曲名でも検索できる(例:Nocturne、Invention)
- 検索結果の楽譜をクリックするとPDFがダウンロードできる

同じ曲でも複数の版が登録されていることがほとんどです。「自分が弾きやすい楽譜」を選べるのが、IMSLPのいちばんの魅力かもしれません。
ダウンロードした楽譜、どうやって整理するかも悩みました。印刷してそのまま使うのもいいけど、書き込みができて、めくりやすくて、ちゃんと保管できるものがほしくて。ちょうどいいノートを見つけた話も書いています。

楽譜の表記は出版社によって違う——その理由
さて、ここで元の疑問に戻ります。「同じ曲なのに、楽譜によって書き方が違う」のはなぜか。
ある日、動画サイトで自分が練習中の曲を検索していたら、手元の楽譜と音符のつなぎ方がまるで違うものを見つけました。16分音符がひとかたまりにつながっているものと、離れて書かれているもの。見た目の印象がまったく変わります。


単純に「見やすさ」だけで言えば、音符が分かれているほうがわかりやすい。ただ、この曲が「三人で演奏しているように弾く」ことを前提にしているとすれば、音符をつなげて表記する全音楽譜出版社の方が、曲の構造をより正確に示しているとも言えます。どちらが正しいか、ではなく、どちらの表記が自分の理解に合っているか、という問題です。
強弱記号は誰が付けたのか
もうひとつ、知っておくと面白い話があります。作曲家が書いた原典(自筆譜)には、強弱記号がほとんど書かれていないことが多いのです。
では、楽譜に書いてある「f」や「p」や「cresc.」は誰が付けたのか。答えは出版社です。「おそらくこう弾くべきだろう」という編集者や音楽家の解釈が書き加えられています。
コピー機も印刷技術も今とは比較にならなかった時代、楽譜は弟子が手で書き写して伝わりました。その過程で書き間違いが混じることもあった。出版社が版を出すたびに、それぞれの解釈が上乗せされた。
大竹先生は、演奏会で弾くときに5〜6冊の楽譜を取り寄せて研究されると聞いたことがあります。プロの音楽家にとって、楽譜の「版」を吟味することは当然の作業なのでしょう。IMSLPでさまざまな版を比べられるのは、そういう意味でも価値があります。
ヘンレ版・ウィーン原典版と、一般的な楽譜の違い
楽譜には、大きく「原典版(ウルテキスト)」と「校訂版」があります。
ヘンレ版やウィーン原典版は、作曲家が書いた原典にできるだけ忠実に校訂されたもので、余計な書き込みが少ない分、自分で解釈する余地が大きい。その代わり値段は高め。一方、全音出版社や音楽の友社の楽譜はリーズナブルで、指使いや強弱記号が丁寧に書かれているため、初中級者には取り組みやすいです。
どちらが優れているかではなく、目的と習熟度によって使い分けるものだと思っています。週刊誌を毎週買い続けることを考えると、ヘンレ版1冊を何年もかけて弾き込む方が、コスト感覚としてはむしろ「安い」かもしれない。
まとめ:楽譜はダウンロードして比べてみる時代
IMSLPを知ってから、楽譜に対する向き合い方が少し変わりました。「この楽譜の表記はおかしくないか?」と思ったとき、別の版をダウンロードして見比べることができる。それだけで、曲への理解が一段深まる気がします。
著作権の切れたクラシック曲を練習している方は、ぜひ一度試してみてください。英語のサイトですが、曲名や作曲家名を入力するだけで使えます。
ちなみに、楽譜を整理するのに使っているノートや道具の話は、また別の記事で。
ピアノ環境を整えるという意味では、調律の話も切り離せません。我が家のピアノをお願いしている調律師さんの仕事を記録した記事があります。

兵庫県在住。Web制作・WordPress歴15年。40代からピアノを再開し、ピアニスト・大竹道哉先生に師事。音楽・カメラ・PC・地域情報をテーマに「秘亭のネタ」を運営。


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