※ 本記事は2017年10月の記事をリライトしました。
2017年秋、兵庫県の飯盛野教会で開かれたコンサートのこと。ヴァイオリニスト・田久保友妃さんと、ピアニスト・大竹道哉氏による共演でした。森の中の小さな教会に、ヴァイオリンとピアノの音色が溶けていく——忘れられない午後です。
田久保友妃さんは、京都市出身のヴァイオリニスト。大阪音楽大学を卒業後、国内外のコンクールで数々の賞を受賞し、現在は関西を中心にクラシック・ジャズの両分野で精力的に活動中です。このコンサートはその活動の一端でしたが、当時の私には「先生の共演相手」としか映っていなかった。今思えばもったいない聴き方をしていたな、と。
飯盛野教会の秋のコンサート|田久保友妃×大竹道哉
飯盛野教会は、森の中にひっそりたたずむ小さな教会です。音響がとびきりよくて、すべての音が体にしみこんでくる。普段のコンサートホールとは違う、親密な空気があります。
この日はあいにく仕事が外せず、遅れて会場へ。楽しみにしていた「ベートーヴェン:ヴァイオリン・ソナタ第8番 ト長調」を聴き逃してしまいました。
悔しい…。

コンサートは中盤に入っていました。愛の光幼稚園の後援による無料開催とあって、小さな子どもたちもたくさん来ていました。二階から元気な声が聞こえていたのですが——
ふっと、静かになる瞬間があったんです。
「ん?」と思って見上げると、二階のベランダに数人の子どもたちが階段の手すりにしがみついて、田久保さんの弓の動きに目も耳も奪われていました。その曲が「バルトーク:ルーマニア民俗舞曲」。
知識も予備知識もない子どもたちが、音だけで引き寄せられてしまった。それが田久保さんの演奏の力だったのだと思います。

昼下がりの教会に、美しい音楽が流れていました。いつもの忙しい生活を忘れて、ただ音に浸れる時間。これが生演奏の、何物にも替えがたいところです。
コンサートを体験したあの子どもたちが、大人になったとき「小さいとき教会でね……」と思い出してくれたら、どんなにいいだろうと思います。

アンコールが終わると、会場いっぱいの拍手。お二人の笑顔が、教会の光の中にありました。
ヴァイオリニスト・田久保友妃さんとは
改めて田久保友妃さんのプロフィールを紹介しておきます。京都市出身。大阪音楽大学音楽学部器楽学科を卒業後、現在も同大学の演奏員として活動を続けています。
コンクール歴が輝かしい。第18回九州音楽コンクールで金賞・最優秀賞、第20回”万里の長城杯”国際音楽コンクール第一位(中華人民共和国駐大阪総領事賞)、第19回大阪国際音楽コンクールでは2部門にわたりエスポワール賞を受賞。国内にとどまらず、ウクライナのチェルニーゴフ・フィルハーモニー交響楽団とも協奏曲で共演するなど、国際舞台でのキャリアも持ちます。
さらに面白いのが、ジャズピアニストの父の影響で幼少期からジャズに親しんできたこと。バッハのシャコンヌからジャズまでをひとりでこなす「ヴァイオリン独演会」シリーズをライフワークにしていて、編曲者としても活動しています。2020年からは米国の楽譜配信サービス・SheetMusicPlusで自身の編曲楽譜の販売も始めました。
クラシックとジャズ、ソロと室内楽、演奏と編曲——どれか一本ではなく、すべてを縦横に横断している奏者です。公式サイトは yukitakubo.com から。
バルトーク「ルーマニア民俗舞曲」——子どもを黙らせた曲
子どもたちを釘付けにしたこの曲、少し掘り下げておきます。
ルーマニア民俗舞曲 Sz.56は、バルトーク・ベーラが1915年に作曲した6曲からなるピアノの小品の組曲。民謡というありふれた素材に新たな生命が与えられており、楽譜には表記されていない民俗音楽的な情緒が求められ、音楽的要求は高い。(ウィキペディアより)
もともとはピアノ曲ですが、ヴァイオリンとピアノ用に編曲されたバージョンがよく演奏されます。民謡由来のメロディーはシンプルで、どこか懐かしい。でも伴奏の和声が少しずつ変容していくのが、聴くほどに面白くなる。
終止が長三和音になっているのが特徴のひとつです。このテーマが二度演奏されると後半へ。

後半はメロディーの音域が広がり、ぐっと盛り上がります。

伴奏の聴きどころは、毎回微妙に変化すること。繰り返しているようで同じでない、その揺らぎが民俗音楽のエッセンスです。

私のクラシック初体験は、泣き出した記憶
子どもが音楽に引き寄せられる場面を見ていて、自分の記憶がよみがえってきました。
小学1年生くらいのころ、父に連れられて初めてオーケストラへ行きました。地元の市民会館で、たしか「ドヴォルザークの新世界」。父はきっとワクワクしていたでしょう。
ところが第一楽章の冒頭——ティンパニーの一発目。
「わ〜ん!」と泣いてしまいました。

口を押さえられながら外へ連れ出され、アメをもらって落ち着いて戻れたのは第4楽章。暗がりの中でスポットライトを浴びた黒服の大人たち——それが怖かった、というのも正直あります。
ちょっぴり苦い初デビューでしたが、本物の音楽に連れて行ってくれた父には今も感謝しています。あの体験が、その後の人生に音楽への扉を開いてくれたのだと思うから。
大竹道哉先生に習うようになって、楽譜の読み方が変わった
大竹道哉氏のレッスンを受けるようになってから、楽譜を読む楽しさが少しずつわかってきました。
「作曲者のこだわりを探しながら音を読む」——そういう向き合い方を教えてもらいました。導音の扱い、和声の流れ、音域の選択。作曲家が「ここはこうしたかった」と仕込んだ痕跡が見えてきたとき、なんとも言えない嬉しさがあります。
大竹道哉氏は、ピティナ・ピアノ曲事典に117曲の演奏音源が登録されるほどの実力を持ちながら、後進の指導にも力を注いでいるピアニスト。現在、飯盛野教会でのレッスンは行われていませんが、大竹ピアノ教室のホームページ(m-ohtake.classic-market.jp)からお問い合わせができます。
このコンサートでは演奏に聴き入るばかりでしたが、次に機会があれば、もっとハーモニーを意識した耳で聴きたいと思っています。
田久保さんの演奏活動は現在も続いています。関西で開催されるコンサート情報は、公式サイト yukitakubo.com で確認できます。
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■校訂・運指・解説:大竹道哉
大竹道哉/ピティナ登録音源
兵庫県丹波市近郊在住。Webディレクター・ライター歴15年以上。情報誌の編集・取材・撮影を経て、現在はWordPressを中心としたWeb制作・ライティングを行う。ピアノ歴は長く、大竹道哉氏に師事した経験を持つ。音楽、カメラ、地域情報を中心にブログ「秘亭のネタ」を運営中。
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