※ 本記事は2017年2月の記事をリライトしました。
子どもの頃からピアノを習い、中学生になって「つまらない」と感じてやめた。結婚後に再開したものの、また楽しさを見つけられずやめた。そんな私が50歳を目前にして、プロのピアニスト・大竹道哉先生に出会い、ピアノが本当に楽しくなった——という話を書いておきたいと思います。
先に断っておくと、ピアニストに習っているので、私がピアノが上手いわけではありません。丹波市に近い兵庫県在住の、ピアノ好きのおばさんです。
大竹道哉先生のプロフィール
大竹道哉先生は、兵庫県明石市在住の現役ピアニストです。
東京音楽大学付属高校・大学・研究科を首席で卒業。読売新人演奏会に出演し、第53回日本音楽コンクール入選。1987〜90年にベルリン芸術大学へ留学し、優等を得て卒業されています。
井口愛子、弘中孝、野島稔、山口優、クラウス・ヘルヴィヒの各氏に師事。ベルリン自由放送・NHK-FMへの出演、ベルリン交響楽団や大阪音大ザ・カレッジオペラハウス管弦楽団などとの共演歴もあります。1992年より大阪音楽大学非常勤講師を務め、2007年にはじめてのCD「バッハ・ピアノリサイタル」(ライブ録音)を発売。「レコード芸術」で高い評価を得ました。
現在は大阪音楽大学での指導のほか、明石市魚住にて大竹ピアノ教室を主宰されています。
👉 大竹ピアノ教室(明石市魚住)のホームページ
👉 大阪音楽大学 講師紹介ページ
👉 ピティナ・ピアノ曲事典(演奏音源117曲)
ピティナのページでは、飯盛野教会のブリュートナーで収録されたライブ音源を含む117曲の演奏が無料で聴けます。先生の演奏がどんなものか気になる方は、ぜひ聴いてみてください。
レッスン会場だった飯盛野教会と、ブリュートナーのこと
私が通っていたレッスン会場は、兵庫県加西市にある日本基督教団飯盛野教会でした。現在、この教会では大竹先生のレッスンは行われていません。以下は当時(2016〜2017年頃)の記録として読んでいただければと思います。

加西市(かさいし)は兵庫県南部、白鷺城で有名な姫路の近くにある市です。その森の中に、小さな小さな教会があります。
この教会に大竹先生を引き寄せたのが、ドイツ・ライプツィヒの名器Blüthner Nr.4(ブリュートナー)です。

ブリュートナーはスタインウェイ、ベヒシュタイン、ベーゼンドルファーと並ぶ世界四大ピアノメーカーのひとつ。20世紀最高の指揮者ともいわれるフルトヴェングラーは、このピアノについて「ブリュートナーのピアノは本当に歌うことができる、そしてそれはピアノにとって最高の褒め言葉である」と書き残しています。
馬で例えるなら「サラブレッド」のような存在です。弾きはじめは「扱えない……」と戸惑うのですが、しばらく弾いていると、何とも言えない音を出させてくれる。慣れてきたころにレッスンが終わってしまうのが、毎回残念でした。

このピアノを調律していたのは、岡本芳雄さん(岡本ピアノ工房)。岡本さんは「良い音を出すためなら如何なる工夫も努力もする」方で、先生の言葉を借りれば「音楽の神様に捧げているような演奏」を引き出すのに、この調律師の存在は欠かせませんでした。
大竹先生に習うと、ピアノへの向き合い方が変わった
私がそれまで習っていた先生は、見本を弾くとしても口で「タラ〜リ♪」と歌うか、右手だけで示すのがほとんどでした。「ピアノの先生とはそういうものだ」と思っていたのです。
大竹先生は違いました。両手で、毎回、本気で弾いてくださるのです。
レッスン前に、リサイタルばりの演奏が聴ける
毎回、レッスンの少し前に教会に着くと、先生がすでに弾いておられます。お邪魔にならないよう、扉を少し開けてドアの外で聞いていました。でも生の音が聴きたくて、そーっと部屋に入っていくのです。
天井の高い教会の、跳ね返ってくる和音の響きに——ゾクゾクっ〜!!とするんです。
ある日はドビュッシーの前奏曲集を弾いておられました。高度な演奏技巧で「音と香りは夕暮れの大気に漂う」を弾かれたとき、私には本当に風が見えた気がしました。大げさではなく、そういう体験ができる場所でした。
(「音と香りは夕暮れの大気に漂う」は、ドビュッシー︓ 前奏曲集 第 1 巻 全 12 曲の中の1曲)
「なんでも弾いていただける」という贅沢
レッスンの合間に「ある生徒がこの曲をやっているんだ」と言いながら、さっと弾かれる。
めちゃくちゃかっこいい。「なんていう曲ですか!練習してもいいですか!」と言ってしまう。「いいよ」と言っていただくのですが……手持ちの曲でいっぱいいっぱいなのに、また増やしてしまうのです(笑)

ツェルニーもバッハも「芸術作品」として教わる
バッハ・インベンションが嫌いだったという方の話を聞くことがあります。大竹先生のレッスンを受けると、インベンションが美しい曲として聴こえてきます。
ツェルニー30番の1番について、先生が「これはこのテンポで弾かないと意味がないんだよね」とサラッと弾かれたことがあります。私「そ、そんなに速いんですか!?」。そして次にショパンのエチュードを弾かれ「どっちが弾きたい?」と。
私「もちろん!ショパンのエチュードです。」
このツェルニーとショパンの例題の出し方に驚きすぎて、大事な説明を聞き逃してしまいました(笑)
小さな子どもが使う「バーナム」テクニック本についても、音楽性が必要だとおっしゃっていた記憶があります。どんな練習曲も「音楽作品」として扱う——それが先生の一貫した姿勢でした。
「それ」とすかさず言ってもらえる安心感
お手本を弾いていただけるので、その音色を出そうと全神経を指先に集中させます。「ふっ」と感触がつかめた瞬間に「それ」とすかさず言っていただける。
この「それ」が、どれだけ大きな安心と自信になるか。

メンデルスゾーンの「甘い思い出」の中間部の音の出し方がどうしても分からなくて、録画させていただいたこともありました。「小さく」ではなく「手の置き方」——その一言で「……なるほど」と理解できたのです。
練習が楽しくなる。気づけば3時間
大竹先生に習うようになってから、家での練習が楽しくなりました。
気がつけば3時間があっという間です。
ピアノを再開してバッハのインベンション6番を課題に選んでいただいたとき、練習初日から焦りました。たった1小節が弾けない。約20年離れていたら、こんなにも弾けなくなるのかとかなりショックでした。
ですので、大人でピアノ再開を迷っている方に声を大にしてお伝えしたい——迷っていると、どんどん老化が進みますよ。一刻も早く再開しましょう(笑)
新しく頂いた課題は「シューベルト/即興曲 Op.90 No.3」。ポツポツと音を探っていくだけで、心が幸せになる曲です。作曲家が計算して考えて考えて美しさを捻り出した「天才が作った音の物語」と対話する感覚——これを知ってしまうと、ピアノをやめられなくなります。
2017年2月のリサイタル(記録として)
2017年2月18日(土)、飯盛野教会にてピアノリサイタルが開かれました。このリサイタルの情報は現在のものではありませんが、私にとって忘れられない演奏会だったので記録として残しておきます。

当日のプログラムは、モーツァルトとドビュッシーでした。
モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K.397 /ピアノソナタ ヘ長調 K.332 /ピアノソナタ 変ロ長調 K.333
ドビュッシー:前奏曲集 第1巻 全12曲(デルフィの舞姫・帆・野を渡る風・音と香りは夕暮れの大気に漂う・アナカプリの丘・雪の上の足跡・西風の見たもの・亜麻色の髪の乙女・とだえたセレナード・沈める寺・パックの踊り・ミンストレルズ)
モーツァルトを演奏されているとき、まるでモーツァルト本人がピアノの上に座って「そう!そこはそう弾いてほしいんだよね」と言っているような気がしました。
ドビュッシーの「音と香りは夕暮れの大気に漂う」では、本当に風が見えた気がしました。驚きました。
演奏会が終わった後、思わず「先生のムソルグスキー『展覧会の絵』が聴いてみたい」とお願いしてしまいました。
なんと…次のレッスンで弾いて頂けた。

天井が高い教会での演奏は、音の跳ね返りや余韻が格別でした。その音響を計算したかのような演奏者の技術と、ピアノを深く愛する調律師の仕事——すべてが重なって生まれた「美しい音色」でした。
先生のブログが、自習の道しるべになる
大竹先生は、日々感じた音楽のことをブログで発信されています。弾いている曲のポイントや先生の考え方がさりげなく書いてあるので、それを読みながら自習できるのです。
自分が教わっている先生がどんな目線で指導されているかが文字で分かる——これは安心感につながりますし、レッスンの密度がぐっと上がります。
練習を楽しむ=上達するコツ(大竹道哉氏のブログより)
ピアノのレッスンでは、生徒に様々な注意をします。それらの注意が「より豊かな」演奏につながっています。先生はレッスン中の注意や練習課題について「それを行っていくとどのように良くなって行くか」を熟知しています。ですから生徒はレッスンの現場で「これをするとどのように変化していくか、何が聴こえてくるか」を質問するのも良いと思います。この「変化」を楽しめるといいと思うのです。
先生はレッスン中、一度も

その音間違っているよ。
…と、仰ったことがありません。「なぜその音になるのか」を丁寧に説明していただけたことで、しっかり理解することができました。そのおかげか、次に弾いたときには自然と修正できていて、自分でも少し不思議に感じました。
仕事環境が変わり、先生のもとを離れた今も
仕事の環境が変わったことをきっかけに、先生のもとを離れました。今は独学でピアノを続けています。
あのころ習ったことは、今でも弾くたびに思い出します。「ふっ」と感触がつかめる瞬間。その感触を探し続けること——それがピアノの面白さだと、大竹先生が教えてくれました。
50代を目前にして、ピアノが本当に楽しくなった。あのタイミングで大竹先生に出会えたことは、私の人生の中でもかなり幸運な出来事のひとつです。
大竹先生のCD・楽譜
大竹先生が発売されているCDと、校訂・解説を手がけられた楽譜です。
・CD「バッハ・ピアノリサイタル」(ライブ録音)→ Amazonで見る
・ヴェーベルン ピアノ作品全集(校訂・運指・解説:大竹道哉)→ Amazonで見る
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