※ 初出:2016年10月の記事をリライト。
兵庫県西脇市黒田庄町黒田にある瀧尾神社の秋祭り宵宮では、毎年「浦安の舞(うらやすのまい)」が奉納されます。
地域の小学6年生の女の子2人が舞姫として選ばれ、9月から練習を重ねて本番に臨みます。お子さんが舞姫に選ばれた親御さん、または舞に興味を持って調べている方へ向けて、この舞の由来や練習のこと、当日の様子をまとめました。
浦安の舞とは――平和を祈る、日本古来の神楽
浦安の舞は、巫女神楽のひとつ。「近代に作られた神楽」と聞くと、意外に思う方もいるかもしれません。
制作されたのは昭和15年(1940年)のこと。当時の宮内省楽部・楽長だった多忠朝(おおのただとも)が、国風歌舞や全国神社に伝わる神楽舞を下地に作曲・作舞しました。皇紀二千六百年の奉祝に合わせ全国の神社で奉奏するためのもので、以来、日本各地の神社祭祀に深く根づいてきた舞です。
「浦安」という言葉には、深い意味が込められています。「うら」は心を指す古語で、「うらやす」は心の中の平穏を表す。『日本書紀』には「日本は浦安の国」という記述があり、神祇の安寧と国の平和への祈りが、この舞の題名に凝縮されているのです。
扇と鈴――舞の構成と意味
浦安の舞は前半の「扇舞」と後半の「鈴舞」の二部構成で、歌詞は2回繰り返されます。
前半で手にする檜扇(ひおうぎ)の端には、松・梅・橘をかたどった造花と六色の長い紐が付いています。ゆっくりと扇を広げながら舞う姿は、静謐でありながらはっとするほど美しい。後半で持ち替える神楽鈴は、五色絹の鈴緒が結ばれたもので、稲穂の実りを象徴すると言われています。「シャリン、シャリン」と鈴の音が境内に響くたびに、聞く者の心がすっと澄んでいく感覚があります。
本来の浦安の舞は神楽笛・篳篥(ひちりき)・箏・太鼓による生演奏で奉納されますが、地域の神社では録音された雅楽のBGMを流しながら舞うのが一般的です。瀧尾神社でも同様で、スピーカーから流れる格調ある音楽に合わせて舞姫が舞います。生演奏とはまた違う静けさがあり、それがかえって舞姫の動きと鈴の音を際立たせているように感じます。
衣装について――白衣に緋袴、花簪
舞姫の装束は、単(ひとえ)・衵(あこめ)・小忌衣(おみごろも)・緋袴で構成されます。額には花簪を付け、髪は後ろで一つに束ねて絵元結(熨斗紙・水引・丈長を組み合わせた装飾)で結う。神社や地域によって細部の違いはありますが、凛とした白と艶やかな緋色の対比は、いつ見ても胸に迫るものがあります。

瀧尾神社の宵宮・本宮で奉納される浦安の舞
宵宮(よみや)とは、本祭の前夜に行われる前夜祭のこと。夜宮・宵宮祭・宵祭とも呼ばれ、かつては神霊が本社に還る「還御祭」として例祭の中でも特に重要な位置を占めていました。
その宵宮の場で、静かに、厳かに、浦安の舞が奉納されます。参拝者たちは口をつぐみ、舞姫の一挙一動を見守る。笛の音、鈴の音、衣擦れの音――それ以外の音が消えていくような、独特の時間です。

お祭り当日、舞姫は黒田の公民館から神主・禰宜とともに歩いて瀧尾神社へ向かいます。決して短い道のりではなく、慣れない着物と草履での道中は、大人でも相当な覚悟がいります。
それを小学6年生が、凛とした姿でやり遂げる。その姿を見るたびに、頭が下がる思いがします。
秋の祭典/浦安の舞の動画
舞姫に選ばれるということ――選出から本番まで
黒田庄町黒田に住む小学6年生の女の子2人が選ばれ、9月から練習が始まります。学校が終わってから毎晩、地域の講師の先生のもとで舞を稽古する日々。足の運び、手の角度、目線の置き方――何度も繰り返しながら、少しずつ形になっていきます。
練習を重ねるうちに、ただ「舞を覚える」だけではない何かが育っていくのだと思います。それが何かは、舞い終えた後の表情を見ればわかる気がします。
宵宮当日、緋袴(ひばかま)をまとい、花かんざしを付けた舞姫が社殿の前に立つ。心をこめて、一つひとつの動作を丁寧に。その姿を見守りながら、胸が熱くなるのは私だけではないはずです。
大晦日・元旦にも奉納される
秋祭りの宵宮だけではありません。大晦日や新年の寒い時期にも、美しい舞の奉納があります。冬の澄んだ空気の中に鈴の音が響く光景は、また格別です。
選ばれた舞姫は、こうして地域の節目節目に神さまへの祈りを捧げる役を担っていきます。
浦安の舞が「平和の祈り」である理由
浦安の舞は、観客のために舞うものではありません。神前に奉納する祈りの舞です。地域の安寧、五穀豊穣、そして世の平和を願う心が、一つひとつの動作に込められています。
秋祭りは農作物の収穫への感謝の場でもあります。浦安の舞を通じて、自然への感謝や平和を祈る心が、世代を超えて受け継がれていくのでしょう。
小学6年生の舞姫が、重い装束をまとい、鈴を手に境内に立つ。その背中に、地域の人々の祈りが重なっているのだと思うと、単なる「お祭りの行事」とは違う感慨があります。
瀧尾神社の秋祭りについて
浦安の舞が奉納される瀧尾神社の秋祭りは、宵宮と本宮の2日間にわたって行われます。太鼓の音とともに境内が熱気に包まれる大太鼓の宮入、子どもたちが担ぐ子供神輿――地域の人々が心をひとつにする、秋の一大行事です。
秋祭りの様子を詳しく知りたい方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
▶ 黒田庄・瀧尾神社の秋祭り ― 杜にこだまする太鼓と心に残る笑顔

神社の迎春準備と浦安の舞
年の瀬には、新年を迎えるための境内の清掃や注連縄の付け替えなど、御當緒(おとう)と呼ばれる当番組が丁寧に準備を整えます。そうして清められた神社に、元日の朝、凛とした舞姫の姿が立つ。その一連の流れを知ると、舞の奉納がいかに大切にされてきたかが伝わってきます。
迎春準備の記録はこちらにまとめています。
▶ 瀧尾神社で年末の迎春準備が進行中!黒田官兵衛生誕地の新たな年の始まり
おわりに
舞姫に選ばれると、学校が終わってから毎晩練習を重ねる日々が始まります。大晦日も、新年の寒い朝も、装束を整えて舞台に立つ。それを支えるのは、本人の努力はもちろん、送り迎えをし、衣装を整え、温かく見守る保護者の方々と、熱心に指導してくださる講師の先生の存在です。
関係者の皆さま、講師の先生、舞姫と保護者の方々、本当にお疲れさまでした。そして、ありがとうございます。
美しい舞が、これからも黒田の地で受け継がれていきますように。


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