佐渡裕 指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団DVDレビュー:壮大な演奏を楽しむ

記事内に商品プロモーションが含まれる場合があります。

佐渡裕がベルリン・フィルを指揮する——それだけで胸がざわつきませんか。しかもこれは、小学校の卒業文集に「ベルリン・フィルの指揮者になりたい」と書いた少年が、本当にその夢を叶えた瞬間の記録です。

収録されているのはショスタコーヴィチの交響曲第5番。重厚でドラマティックなこの作品に、佐渡裕の情熱とベルリン・フィルの圧倒的な表現力が重なって、画面越しでも空気が震えるのを感じます。これは「ただの名演」ではない。音楽が人の心に触れる瞬間そのものが、映像に刻まれています。

目次

小澤征爾以来、2人目の快挙——この舞台がどれほど特別か

2011年5月20日から3日間、ベルリン・フィルハーモニーホール。約2,400席がほぼ連日満席。日本から飛んできたファンもいたけれど、それはごく一部で、現地の期待の高さがよく伝わってきます。

そもそも、ベルリン・フィルの「定期演奏会」に日本人指揮者として立つのは、小澤征爾以来2人目のこと。しかも招待ではなく、団員による投票で選ばれた客演指揮者として、です。ベルリン・フィルには「この指揮者はダメ」とスイッチが入ったら、オーケストラが自分たちだけで演奏してしまうという話がある。ライオンの檻、と表現した指揮者もいるそうです。

さらにリハーサルはたったの2日間。これはかつてバーンスタインが苦言を呈したほどの短さ。その状況で、いかに自分の解釈を伝え、オーケストラをまとめるか。指揮者の真価が試される場所でもあります。

ベルリン・フィルの音が「生きている」と感じる理由

音に色がある、という言い方があります。少し大げさに聞こえるかもしれません。でも、この演奏を観ると妙に納得してしまう。

弦はしなやかに歌い、木管は息づかいまで伝わる。金管は芯がありながら決して荒くならない。打楽器は全体の土台として支える。それぞれが主張しながら、全体はひとつにまとまる。まるで巨大な生き物が呼吸しているような、不思議な一体感があります。

特に第3楽章。静けさの中にある感情のうねり。何度観ても、ふと手を止めてしまう美しさがある。佐渡さん自身も「第3楽章はレクイエム。モノクロ写真の哀しみの中に、チェロだけに色がつく」と語っていて、そのイメージ通りの音が実際に鳴っているから驚きます。

佐渡裕だから引き出せた「未知の領域」

以前の私はこう思っていました。「ベルリン・フィルなら、誰が振ってもすごいのでは?」

でも、この映像を観て考えが変わりました。むしろ逆なんです。優れたオーケストラほど、指揮者の個性がそのまま音になる。感性が鋭い集団は、リーダーの意図をそのまま反映してしまうから。

佐渡裕の指揮は、どこか温かい。音楽を楽しみ、慈しむような空気がある。その空気が、団員全体にじんわり広がっていく。最終日の演奏後、本人が「未知の領域に達した」と語ったのも印象的でした。特に第4楽章後半、表情が変わる瞬間がある。あの場面、何度見ても引き込まれます。

佐渡裕 ベルリンフィル DVD サイン入り写真

取材のときにいただいたサイン。今でも大切な一枚です。

👉 関連記事:アフリカンシンフォニーの作曲者は誰?佐渡裕氏が語った「音が見える」指導の真髄

佐渡裕 指揮 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団 DVD/Blu-ray

映像も音質も申し分なく、自宅でこのクオリティが楽しめるのは、贅沢以外の何物でもありません。特典映像としてNHKハイビジョン特集「情熱のタクト」(特別編集版)も収録されていて、リハーサルから本番までの緊張感もしっかり追えます。

もう一人の主役——コンサートマスター・樫本大進という存在

観ていて、どうしても目がいく人がいました。コンサートマスターの樫本大進さんです。

体全体で音楽を伝えているような動き。最初は少し驚いたのですが、あの動きは「合図」だったんですね。音の入り、ニュアンス、次の展開——言葉を使わずに後方の団員へ伝えていく。その積み重ねが、あの圧倒的な一体感を生んでいる。

そう知ってから改めて映像を観ると、また違った感動があります。同じDVDなのに、見え方が変わる。これがこの映像の面白いところでもあります。

もっと深く聴きたい方へ——樫本大進のCD

樫本さんの音に惹かれた方は、ソロ音源もぜひ。繊細さと芯の強さ、その両方が感じられます。

👉 関連記事:ドラマ「カルテット」のBGMに流れたリスト「慰め第3番」——あの切ない旋律の正体

音楽が「誰かのため」になる瞬間

この演奏には、もうひとつの背景があります。

佐渡裕は、東日本大震災の後、「音楽家として何ができるか」を考え続けていたそうです。その思いが、この演奏に込められている。ただ美しいだけではない——誰かに届いてほしいという願いが、音にじんわりにじんでいる。

終演後、オーケストラが引き上げたあとも拍手は止まらず、佐渡さん一人が何度も呼び戻された。演奏が終わる前から涙が止まらなかったとも語っていました。画面越しに樫本さんの目が潤んでいるのもはっきり見えて、もらい泣きしてしまいました。

ベルリン・フィルハーモニーホール ショスタコーヴィチ第5番 ステージ風景

まとめ|「記録」ではなく「体験」に近い一枚

このDVDをひとことで表すなら、「手元に置いてこそ意味がある一枚」。

ショスタコーヴィチが好きな方はもちろん、ベルリン・フィルに興味がある方、クラシック入門として本物の演奏に触れたい方——どなたにも自信を持っておすすめできます。ふとしたとき観返したくなる、不思議な引力のある映像です。

気になった方は、ぜひ一度。その音の熱を感じてみてください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

目次