※ 本記事は2024年3月の記事をリライトしました。
「負けた将棋のほうが、印象に残っていることが多い」
読んでいてふと手が止まった。負けた記憶を大事にしている人が、あれほど勝ち続けているとは。
この言葉は、将棋界で史上初の八冠を達成した藤井聡太棋士と、iPS細胞の研究でノーベル賞を受賞した山中伸弥教授の対談本に出てくる。本のタイトルは『前人未到』(講談社文庫)。もとは2021年刊行の『挑戦 常識のブレーキをはずせ』という本で、文庫化のタイミングで改題されている。
将棋と医学という、まるで別世界のふたりが、どうしてこんなに話が合うんだろう?
そんなことを思いながら、一気に読みました。

ふたりとも、まだ「その先」を目指している
藤井聡太棋士は、2023年に史上初の八冠独占を達成。その後、2024年の叡王戦で初めてタイトルを失ったものの、現在も竜王・名人をはじめ六冠を保持している。永世棋聖・永世王位・永世竜王の称号も次々と手にして、もう「すごい」を通り越して「どうなってるの」という感じだ。
山中教授はといえば、ノーベル賞を受賞した後も研究を続けている。「iPS細胞をいかに多くの患者に届けるか」が自分のミッションだと、受賞後もずっと言い続けている人だ。
賞をゴールにしない、というのがかっこいい。
ふたりとも、すでに十分すぎるほど「結果」を出している。それでも立ち止まらない。読んでいると、なんだか自分のことを少し棚に上げて「よし、私もがんばろう」という気持ちになってくる(笑)。
「負けた記録」を大切にするということ
この対談でいちばん刺さったのは、失敗や負けとの向き合い方の話だった。
藤井棋士は「負けた将棋のほうが印象に残る。いつ形勢が傾いたか、そのポイントが気になる」と言う。勝った喜びよりも、負けた局面の分析のほうが頭に残るというのが、なんとも藤井さんらしい。
山中教授も同じ温度感で語っていた。「研究生活は失敗するのが普通。思い通りにいかなかった実験をどれだけ大切にできるか。そこから思いがけないことにつながる」と。
負けたことはできれば忘れたい…それが人情というものだけど、ふたりは逆をいく。負けや失敗こそ、丁寧に記録して、ちゃんと振り返る。それを続けた先に、「前人未到」がある、ということなんだろうなあ。
読み終わって、自分のブログの失敗ネタをもう少しちゃんと残しておこうかな、と思った。

ちょっとレベル違いすぎだけど…。
AIとどう付き合うか、という話
将棋棋士はAIをどう使っているのか
将棋の世界では、AIを使った研究がもはや当たり前になっている。藤井棋士もその一人。
ただ、AIが「この手が最善」と示したとき、藤井棋士が気にするのは「なぜその手なのか」という理由のほうらしい。
答えをそのまま使うのではなく、その背景にある考え方まで理解しようとする。そこが「AIで強くなる棋士」と「AIに依存するだけの棋士」を分けているのかも、と思った。
「AIは良き同僚、良き部下」——山中教授の言葉
山中教授の言葉で、ひときわ好きなフレーズがある。「AIを良き同僚、良き部下として使いこなしたい」というものだ。
AIが「右に行けば成功率60%、左は40%」と示したとしても、自分の感覚や経験から「どうしても左に行きたい」と思う瞬間がある。そしてその「左」が正解だったという例は山ほどある。
そう教授は語っています。
確率では測れないものを、人間はまだ持っている。そう言ってもらえると、なんとなくほっとする。
AIってどこまで進化するんだろう?そう思った方、ちょっと覚悟して見てほしい記事があります。
踊る・走る・転んでも立ち上がるロボットが、「これ本当にCGじゃないの?」というレベルで動いている。山中教授が言う「AIは良き同僚」の、その”同僚”がリアルに姿を現しつつある時代の話です。


「知らなかったから発見できた」という逆説
iPS細胞の発見にまつわるエピソードも、本書のなかで語られている。「深く知りすぎなかったから、常識外の方法で発見できた」というのが山中教授の言い方。
「知っていたら怖くてできないことも、知らないからできてしまうことがある」
…言われてみれば、そうかもしれない。
知識が増えるほど「これは無理だ」という判断も増える。工学部出身の学生のひと言がきっかけになったというエピソードも、なんとも示唆(しさ)に富んでいる。
藤井棋士も、既存の定跡にとらわれない手を指して「AI超え」と呼ばれることがある。「常識のブレーキをはずす」という旧タイトルの言葉は、ふたりに共通する生き方そのものだと思う。
あとがき
実は山中教授の本、何冊か手元にあります。最初はテレビで見かけたお人柄に惹かれて手に取ったのだけど、いつの間にかファンになっていました。
「ジャマナカ」と陰で呼ばれていた臨床医時代の話、挫折の話…そういうことを隠さずに語ってくれる人の本は、読んでいて妙に安心感がある。
失敗を何千回と繰り返した先に、世界を動かす発見があったという事実は、何度読んでも励みになる。
教授の自伝的な本は、小学生でも読めるようにルビがふられているものもある。子どもへのプレゼントにも、なかなかいいと思う。



「エリートではなかった」という表現は、医師を志した教授には正確ではないかもしれません。でも、ノーベル賞受賞者が「自分は普通だった」と語るとき、なんとも言えない説得力があります。すごい人ほど、自分のことを小さく言うものなのかな。
おまけ——AIに将棋の対局を描いてもらった
本の感想を書きながら、ふと「AIに対局のイメージ画像を描いてもらおう」と思い立った。


和の雰囲気と中華テイストが絶妙に混ざり合っている(笑)。「日本の将棋」と伝えたのに、なんでこうなったんだろう。でもこれはこれで味があって、AIらしくていい気がしてきた。
ChatGPTのような対話型AIが出てきてから、正直かなり助かっています。文章の整理をしてもらったり、調べ物のとっかかりにしたり。ただ、AIの答えをそのまま使うと、どこかで「あれ?」となることも少なくない。
AIに使われるのではなく、昨日より一歩前進するためのツールとして付き合う。
山中教授の「良き同僚」という言葉を、もう少し意識してみようと思う。
手を動かすことが好きな方には、こんな楽しみ方もある。
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