2012年に亡くなったブルガリアの名ピアニスト、アレクシス・ワイセンベルク[1929-2012]。
その彼が1967~1969年にRCAに残したLP7枚分の録音をオリジナル・カップリングで初めてボックス化。それに加えて、1950年コロンビアから10インチ盤で発売された「シギ・ワイセンベルク」名義のデビュー盤が含まれています。
アレクシス・ワイセンベルク/RCAアルバム・コレクション(7CD)
協奏曲はラフマニノフの第3番(プレートル指揮シカゴ響)とバルトークの第2番(オーマンディ指揮フィラデルフィア管)という難曲が選ばれているのもワイセンベルクならでは。
「クリスタル・クリア」と称された音色を縦横無尽に駆使したワイセンベルクのラフマニノフの前奏曲集全曲は、ロシアのメランコリーとは無縁であり、ペダルを過度に用いずに、強靱な打鍵を行ないながら分厚い和音を濁らすことなく澄明に響かせて、至難なパッセージをも淀みなく弾き進むという絶品の名演です。
今回の発売のために、新たにオリジナル・アナログ・マスターテープよりリミックスおよびリマスターをおこなっての発売です。各ディスクは米国初出時のデザインによる紙ジャケに封入され、クラムシェルボックスに収納、詳細な録音データと未発表写真を含むオールカラー・ブックレットが添付されます。(輸入元情報)
【収録情報】
Disc1
プロコフィエフ:
● ピアノ・ソナタ第3番イ短調 Op.28
● 悪魔的暗示 Op.4-4
スクリャービン:
● 練習曲 第11番変ロ短調 Op.8-11
● 左手のための2つの小品 Op9-2
ラフマニノフ:
● 前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-3
● 前奏曲 変ホ長調 Op.23-6
● 前奏曲 ト短調 Op.32-12
録音時期:1949年1月、1950年5月
録音場所:ニューヨーク、コロンビア30番街スタジオ
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:ML-2099
Disc2
ショパン:
● ピアノ・ソナタ第3番ロ短調 Op.58
● スケルツォ第1番ロ短調 Op.20
● スケルツォ第2番変ロ短調 Op.31
録音時期:1967年8月
録音場所:ニューヨーク、ウェブスター・ホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-2984
Disc3
● ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番ニ短調 Op.30
シカゴ交響楽団
ジョルジュ・プレートル(指揮)
録音時期:1967年11月
録音場所:シカゴ、オーケストラ・ホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-3040
Disc4
ドビュッシー:
● 子供の領分
● 亜麻色の髪の乙女
● 喜びの島
● 組み合わされたアルペッジョのための練習曲
● ベルガマスク組曲
● レントより遅く
録音時期:1968年3月
録音場所:パリ
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-3090
Disc5
ハイドン:
● ピアノ・ソナタ第62番変ホ長調
● ピアノ・ソナタ第33番ハ短調
● ピアノ・ソナタ第50番ニ短調
録音時期:1968年7月
録音場所:ハリウッド、RCAスタジオ
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-3111
Disc6
バルトーク:
● ピアノ協奏曲第2番 Sz.95
● 4つの管弦楽曲 Sz.51
録音時期:1969年11月
録音場所:フィラデルフィア、タウン・ホール
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-3159
Disc7
ラフマニノフ:
● 前奏曲 嬰ハ短調 Op.3-2
● 前奏曲集 Op.23(全10曲)
● 前奏曲集 Op.32(全13曲)
録音時期:1968-1969年
録音場所:ハリウッド、RCAスタジオ
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:LSC-7069
アレクシス・ワイセンベルク(ピアノ)
ワイセンベルク演奏集のセット物はEMIに続いて今年ユニヴァーサル・イタリーからグラモフォン盤がリリースされたばかりだが、こちらはRCAのコンプリート・レコーディング集で7枚組のバジェット・ボックスになり、彼のそれぞれのメーカーへの正規録音が出揃った感がある。CD1は唯一彼が演奏活動から一度退く前の1949年の録音で、勿論モノラルだがこの時期の彼のロシア物へのフレッシュな解釈が聴ける貴重な1枚だ。その他はカンバック以降の総てが60年代後半のステレオ録音で、リマスタリングの効果もあって音質は鮮明で、フォルテがやや再現し切れない箇所があるにせよ概ね良好だ。1枚ごとに初出時LPの曲目をそのままカップリングしているので、枚数の割には収録時間が少ないがオリジナル・ジャケットがプリントされたコレクション仕様になっている。ライナー・ノーツは35ページあり、前半にニューヨークの作曲家ジェド・ディストラーによるスナップ写真入りワイセンベルクのキャリアが英、独、仏語で掲載され、後半では総てのジャケット写真付トラックリストが参照できる。
7枚のうち2枚がオーケストラとの協演になる協奏曲集で、CD3はジョルジュ・プレートル指揮、シカゴ交響楽団によるラフマニノフのピアノ協奏曲第3番、CD6がユージン・オーマンディ指揮、フィラデルフィア管弦楽団とのバルトークの第2番で、前者が1967年、後者が69年の録音だが、ラフマニノフは第1楽章から速めのテンポでワイセンベルクの研ぎ澄まされた感性とピアニスティックなテクニックがひときわ冴えた演奏だ。プレートルの指揮も気が利いていてシカゴから鮮烈なサウンドとスケールの大きいロマンティシズムを引き出している。一方バルトークではオーマンディ、フィラデルフィアのサポートによる、大地の叫びとも言える野趣に溢れた力強いソロが圧巻だ。ソロ・ピースでは個性的なショパンやドビュッシーだけでなく、機知に富んだ疾駆するハイドンのソナタ集も魅力だし、彼自身の迸る情熱と拭い去ることのできない憂愁をぶつけたラフマニノフの前奏曲集も感動的。