「獺祭 島耕作」を知っていますか?復興支援1億円と、兄が挑んだ山田錦コンテストの話

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獺祭 純米大吟醸 島耕作

※ 初出:2018年8月の記事をリライト。

実家に帰るたびに、兄がよく振る舞ってくれるお酒があります。それは、山口県岩国市の旭酒造が造る純米大吟醸、「獺祭だっさい」。

そんな身近な存在だった獺祭が、ある夏、全国ニュースを駆け巡った。2018年の西日本豪雨——被災した酒蔵を救うべく生まれた「獺祭 島耕作」という一本のお酒の話と、その後に兄が成し遂げた、ちょっと信じられないような出来事の話を書いておこうと思う。

目次

お盆に届いた謎の荷物

8月15日のお盆、見覚えのない荷物が届いた。

「なんだろう……」と開けてみると、なんと日本酒。珍しく、主人が自分で注文していたものでした。

届いた獺祭島耕作の箱。お盆に自宅に到着した

ニュースで話題になっていた「獺祭 島耕作」。主人はそれを見て、「粋なことするなあ」とつぶやいていたのを思い出した。

獺祭島耕作のボトルと島耕作のラベルのアップ

飲み終えても、あのラベルが眺めたくて瓶を飾ってしまうのがわかる気がした。島耕作のイラストが描かれた特別なラベル、なんともいえない存在感がある。

獺祭の味わい——はじめて飲む人ほど驚く

実家を訪れるたびに、兄が必ず主人に獺祭を振る舞ってくれる。飲みなれているようで、じつは毎回「おいしいな」と思わされるお酒です。

まず香りが華やか。グラスに注いだ瞬間、「あれ、フルーツ?」となる。メロンやりんごに近い、やわらかくて甘い香り。口に含むと、ほんのり甘みがあって、するりと飲める。いわゆる”日本酒っぽいツンとした感じ”が少ないので、日本酒が苦手な人でも驚くほど飲みやすい。後味もきつくなく、きれいに消えていく。

ざっくりまとめると、こんなイメージ。

  • 香りがフルーティーでわかりやすい
  • やや甘めで、やさしい口当たり
  • 日本酒が苦手な人でも飲みやすく、日本酒デビューにもよく選ばれる

「ガツンと辛口が好き」という方には少し物足りないかもしれないけれど、気づいたら瓶が空になっているタイプのお酒、というのは本当で……飲みやすいのが最大の落とし穴(笑)。

「獺祭 島耕作」誕生の背景——被災した酒蔵と、岩国出身の漫画家の話

2018年7月の西日本豪雨は、旭酒造にも深刻な被害をもたらした。酒蔵の前を流れる川が氾濫し、1階は約70センチ浸水。さらに送電線の破断で3日間の停電が発生した。

獺祭島耕作の販売告知フライヤー。西日本豪雨復興支援商品として案内されている

150本の発酵タンク(50万リットル強、四合瓶換算で約70万本分)は、停電によって温度管理が不能に。「獺祭だっさい」としての品質基準には届かなくなってしまった。推定被害額は約15億円とも報じられた。

そこに手を差し伸べたのが、旭酒造と同じ岩国市出身の漫画家・弘兼憲史氏だった。

弘兼氏は被害をニュースで見て心を痛め、旭酒造の桜井博志会長に連絡。「島耕作の名前を使って、なにかできないか」と申し出た。最初は泥水をかぶったお酒を買い取ろうとしたというが、衛生上それは難しい——そこで生まれたアイデアが、発酵中のお酒を新ブランド「獺祭 島耕作」として世に出すことだった。

7月23日の打ち合わせから8月2日の記者会見まで、わずか10日。「大人が本気になるとここまでできるのか」と語られるほどのスピードで、プロジェクトが動き出した。

獺祭島耕作のボトル。島耕作のイラストラベルが貼られた720ml瓶

販売価格は720ml・1,200円(税別)。1本につき200円が西日本豪雨の被災地への義援金として寄付された。最終的には約58万本が販売され、山口・岡山・広島・愛媛の4県に計約1億1,600万円が届けられたという。

なお、中身は「磨き その先へ」「二割三分」「三割九分」「50」それぞれで出荷予定だったお酒のブレンド。一部には定価3万円の最高ランクが含まれているという話も。どのランクが入っているかは飲んでみるまでわからない——そんな「獺祭ガチャ」とも呼ばれた面白さも、話題を呼んだ理由のひとつだったかもしれない。

旭酒造が「酔うためのお酒」を造らない理由

旭酒造のポリシーは一言でいえば、「酔うため・売るためのお酒ではなく、味わうお酒を求めて」。

大量販売の論理ではなく、飲む人の生活を豊かにする一本を目指す——その姿勢が、被災という逆境の中でも「品質基準を妥協しない」という判断につながったのかもしれない。獺祭として出せないなら、新しいブランドで正直に出す。そこに、この蔵元の誠実さが見える気がした。

そして兄が、旭酒造の山田錦コンテストで準グランプリを受賞した

ここから、個人的にとても誇らしい話になる。

日本酒の原料米といえば「山田錦」。旭酒造は2019年から、その山田錦の品質を競う「最高を超える山田錦プロジェクト」を毎年開催している。全国の契約農家が参加し、グランプリ受賞者には市場価格の約25倍にあたる賞金3,000万円(60俵分)が贈られる、農家にとって夢のような舞台。

そのコンテストの2021年度大会で、なんと私の兄が準グランプリを受賞した。

最高を超える山田錦プロジェクト2021の表彰式。左から旭酒造・桜井一宏社長、桜井博志会長、グランプリ受賞者、準グランプリの兄、弘兼憲史氏

写真左から、旭酒造・桜井一宏社長、桜井博志会長、グランプリの方、準グランプリの兄、そして弘兼憲史さん。

頂いた賞金1,000万円は、次の農機具の投資に消えたそうです(笑)

兄はもともと理系の大学を出て、樹脂を研究する仕事に長年ついていました。定年後、第二の人生としてコメ作りを選んだ人間なにです。

2021年の審査は、例年以上に難しかったという。それまでの基準(心白が大きい山田錦が良質)が見直され、「超高精白に耐えられる、心白の小さい米かどうか」という新基準が加わったから。全国11以上の県から50件以上がエントリーした中での準グランプリ。何度も試行錯誤を繰り返して、ようやく辿り着いた受賞だったと聞きました。

受賞のコメントで「特A地区ではないのに受賞できた。周りの生産者への励みにもなると思う」と語っていたのを読んで、なんだか胸があつくなりました。

旭酒造がこのコンテストを続ける理由は、「補助金でなく、夢と誇りで農家を支えたい」という信念からだと聞く。市場価格の25倍という賞金は、そのメッセージそのものだと思う。

定年後に畑に立ち、そこで最高の山田錦を目指す兄の姿は、私にとって少し眩しい。

おわりに——一杯のお酒の裏にある話

「獺祭 島耕作」はすでに販売を終えた、2018年限りの特別なお酒。でも、あのお酒が生まれた背景には、被災した蔵元と岩国出身の漫画家が力を合わせた話があって、そして最終的に1億円以上の支援金が被災地に届いたという事実があります。

お酒一本に、これだけのドラマが詰まっていることを、私はこれからも語り続けたいと思っている。

そしてもし機会があれば、ぜひ獺祭を一杯。兄が手塩にかけた山田錦が、どこかのタンクに混じっているかもしれない——なんて思いながら飲むと、少しだけ特別な気持ちになれるから。


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