※ 初出:2015年3月の記事をリライト。
「伴奏者、やります」
息子がそう手を挙げるようになったのは、中学に入ったあたりからだろうか。ピアノが弾ける自分を、少しだけ誇りに思い始めた時期と重なっていたと思う。
合唱コンクールのピアノ伴奏。クラスのみんなの歌声を支える、縁の下の仕事だ。目立たない。スポットライトは歌う生徒たちに当たる。でも息子は、毎年のように立候補した。
楽譜が届いてから、本番まで
伴奏を引き受けると、楽譜が渡される。そこから本番まで、とにかく時間がない。
学校の先生は知らないのだと思う。ピアノを習っていても、初めて見る楽譜をすぐには弾けないということを。音符を読むのと、指が動くのは別の話だ。暗譜して、クラスのテンポに合わせて、感情を乗せて弾けるようになるには、それなりの時間が必要になる。
一番大変だったのは、高校1年のときだった。
進学校だったこともあって、学業の量がとにかく多い。部活もある。楽譜をもらってすぐ練習したくても、中間テストが重なる。部活の試合が入る。曲に取り組めたのは、本番の2週間前からだった。
そして合唱コンクールが終わったら、すぐ期末テストだったそうだ。
案の定、成績はガタガタになった。
「来年は辞退する?」と聞いてみた。
「来年も立候補するで」と返ってきた。
朝、誰よりも早く起きていた
テスト期間中も、息子は朝早く起きてピアノの前に座っていた。
その音を聴いていたのは、私と、うちのワンコのユキちゃんだけだった。
ユキちゃんは、息子がピアノを弾き始めると決まってそろそろと部屋に入ってきた。そしてピアノの真横で、静かに丸くなって聴いていた。尻尾も振らず、じっと。
思えば、息子のピアノを一番長く聴いていたのは、このワンコだったかもしれない。
本番当日、学校に見に行った。舞台を見渡すと、ピアノが見当たらない。よく探すと……あ、いた。
見事にスポットライトの外。

合唱コンクールなのだから当たり前といえば当たり前だが、カメラを思い切りズームして我が子を激写した。

舞台の上で、鍵盤が白く光る
ライトに照らされた鍵盤というのは、真っ白に見える。普段の練習室の光とはまるで違う。
舞台に上がった瞬間から、緊張はマックスになる。頭の中も真っ白になることがある。そんな状況で、クラス全員の歌を支えなければいけない。テンポを守りながら、歌声を聴きながら、自分の指も動かし続ける。
それでも、途中で止まる子が出る。止まってしまえば、歌も止まる。クラス全員の空気が変わる。伴奏を引き受けるというのは、そういうことを背負うことだ。
息子の先生がよく言っておられた言葉がある。「舞台に上がれば誰もがひとり。途中でミスをしても止まってはいけない。弾き切る。音楽は時間の芸術だから。」
本番を終えて、クラスの子たちが言ってくれたそうだ。
「気持ちよかったわ〜」
「途中、いつもより盛り上げて弾いてたやろ?鳥肌たったわ。胸にぐーってきた。」
それを聞いて、思わず涙が出そうになった。
伴奏者は、縁の下にいる
合唱コンクールのピアノ伴奏に、賞はない。表彰されない。名前も呼ばれない。
でも、伴奏が良ければ合唱が変わる。クラスのみんなが気持ちよく歌えるかは、伴奏次第だと私は思っている。スポットライトの外で、一人で支えている。その責任の重さを、高校生の息子はちゃんと知っていたのだと思う。
来年も立候補する、と言えたのは、怖くなかったからではなく、それが好きだったからだろう。
ピアノを習わせて、本当に良かった。子どもの成長と一緒に、親も育ててもらった気がする。
面と向かっては言えないけれど、ありがとう。
【今日は君のBirthday伴奏歌唱】中学1年生
【旅立ちの時】高校1年生

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