映画『日日是好日』感想レビュー|樹木希林の”たたずまい”に息をのんだ

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※ 本記事は2018年11月の記事をリライトしました。

Amazonプライムで映画『日日是好日』(にちにちこれこうじつ)を久々に観直した。あ、そういえば…と思い出した。この映画、公開当時に映画館で観ていたのだ。ちょうど転職前の、ほんの数日だけ自由だった時間に。

8年経って改めて観ると、あのとき感じたことの意味が、少しずつ言葉になってくる気がした。

茶道の奥深さはもちろん、何でもない日常のひとこまが実はかけがえないものだと、今さらながら気づかされる。樹木希林さんが演じる武田先生の”たたずまい”が、やっぱり頭を離れない。

目次

映画『日日是好日』の基本情報

タイトル日日是好日(にちにちこれこうじつ)
公開2018年10月13日
監督・脚本大森立嗣
原作森下典子『日日是好日―「お茶」が教えてくれた15のしあわせ』(新潮文庫)
主なキャスト黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴見辰吾
上映時間約100分

あらすじ―25年分の「お茶」と人生

大学生の典子(黒木華)は、母の勧めでいとこの美智子(多部未華子)とともに近所の茶道教室へ通い始める。師匠は「タダモノではない」と噂の武田先生(樹木希林)。

袱紗(ふくさ)のさばき方、道具の手入れ、季節ごとに変わる掛軸…。決まりごとだらけのお茶の世界に最初は戸惑うばかりだった典子が、就職の挫折、失恋、大切な人との別れを経ながら、少しずつお茶の意味を体で覚えていく。時間軸は実に24年。

桜の花びらが散るラストシーンまで、静かに、でも確かに心を揺さぶる物語です。

日日是好日 原作エッセイ 森下典子

観て気づいた:樹木希林の「立ち姿・座り姿」という演技

映画館で観終わったとき、あれ?と思った記憶がある。うまく言語化できないまま帰宅した。

今回Amazonプライムで観直して、ようやく確信したのです。樹木希林さんは、台詞よりも前に、体で年齢を演じていた

物語は24年分の時間を描く。その24年が、台詞ではなく、武田先生の体に刻まれている。

序盤の座り方と、終盤の座り方が違う。立ち上がる速度も、立ち姿の重心の置き方も、少しずつ、ほんの少しずつ変わっていく。気づいたときにはもう、「あ、年をとった」と感じている。なのにそれを”演じている”素振りが微塵もない。

これが役者か、と静かに感動した。

セリフ回しや表情だけが演技ではない。そう実感させてくれた数少ない映画体験のひとつになった。

原作者・森下典子が撮影現場に立ち会ったこと

この映画のもうひとつの見どころは、原作者の森下典子さんが映画化を単に「許諾」しただけでなく、茶道指導者として撮影に深く関わった点だ。

監督に頼み込まれ、最初は戸惑いながらも現場に参加することになった経緯は、のちに出版された『茶の湯の冒険 「日日是好日」から広がるしあわせ』(文春文庫)に詳しく書かれている。

原作者が茶道具や掛軸のコーディネーターまで務めたからこそ、あの茶室は「リアル」だった。映画と原作を読み比べても大きな乖離を感じなかったのは、忠実な再現があってこそ。これはなかなかない贅沢な映画体験だと思う。

撮影に使われた茶室のエピソード

お茶室のセットは、樹木さん推薦の民家を改築して建てられた。横浜市の広い芝生の庭のある家——実は樹木さんの妹さんの嫁ぎ先の空き家で、庭に茶室を建て増し、茶庭、板塀、路地まで一から作り上げたという。

室内に掲げられている「日日是好日」の額の書は、樹木さんのアイデアで小学生が書いたもの。その子はインタビューで

「日」を それぞれ変えて書きました。

と話していた。四文字の中の「日」を全部違う字で書く。その奥深さに、思わず息をのんだ。

日日是好日 茶室 撮影セット

観る前に原作を読んでおくべき?

予告を観た瞬間、「この映画だけは、本を読んでから行こう」と決めていた。

結果として、原作を先に読んでいて正解でした。茶道がもたらす季節の感覚、師弟の関係性——文字で受け取っていたものが映像に重なる体験は、なかなか得られるものじゃない。

茶道のもたらす効果が、随所に自然なエピソードとして書かれていて、読み進めるのが楽しい。映画の予習としてはもちろん、単体でも十分に読み応えのある一冊だ。

「すぐわかるものと、長い時間をかけて分かるものがある」

この作品のテーマを一言で言うなら、この言葉に尽きると思う。

人はすぐに答えを求めたがる。分かりやすい方がいい。でも、そんな単純なものではないことも、みんなどこかで知っている。

茶道に限らない。写真でも、音楽でも、料理でも——何かにずっと向き合い続けた時間は、ある日ふと「振り返ったときにしか見えてこないもの」を教えてくれる。この映画はそのことを、押しつけがましくなく、静かに語りかけてくる。

転職前のあの数日間に、なぜかこの映画を選んでいた。今思えば、必然だったかもしれない。何年か先にもう一度観たとき、きっとあの日のことを思い出すだろう——そんな予感がする。

こんな人に特におすすめ

  • 樹木希林さんの最後期の作品を観たい
  • 茶道に興味があるが、難しそうで踏み出せていない
  • 人生の転換期に、静かな映画を観たい気分のとき
  • 「何かひとつのことを長く続ける」ことの意味を考えたい
著者について

秘亭のネタ 運営者。兵庫県西脇市在住。フリーのWebライター・編集者として活動するかたわら、カメラ(Nikon D7200)を持って地元の食や風景を記録している。映画は単館系・邦画を中心に、気が向いたときに映画館へ出向くスタイル。クラシック音楽とピアノ(バッハのインベンション練習中)も好き。

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